今年も能動的に音楽を探すというより評判がいいものをつまみ食いする受動的なスタイルでした。
1. The Raging Wrath Of The Easter Bunny Demo / Mr. Bungle
名誉枠で1位に。
純粋な新作ではなく、マイク・パットン、トレイ・スプルアンス、トレヴァー・ダンがまだ10代だった1986年に作ったデモをAnthraxのスコット・イアンとSlayerのデイヴ・ロンバードの力を借りて再レコーディングしたアルバムなのです。Mr. Bungleと言えばミクスチャーという言葉では到底括れないアヴァンギャルドかつポップな音楽がウリでしたが、この1986年のデモは(オリジナルは多少スカ色もあるものの、このリレコではそういうところをカットしたので)徹頭徹尾スラッシュメタル。
正直最初にこの話を聞いたときは「いやいやMr. Bungleに期待するのはそういうんじゃないから…せっかく3人そろったのになんでやるのがソレなんだよ…」と思ってたんですが、いざ出来上がったのを聴いてみると、音楽の幅は狭いものの、スラッシュの快感と飽きのこない展開のバランスが絶妙でめっちゃいいのよね。練って作った展開というよりひたすら快感原則のおもむくまま繋いでいったらこうなった、みたいな感じでずーっと聴いてられる。メキシコ民謡?La Cucaracha(アントマンでバンのホーンに使われてたアレ)でふざけつつS.O.D.のSpeak English Or DieをSpeak Spanish Or Dieに替えて繋ぐHypocritesとか、Corrotion Of ConformityのLoss For Wordsをやったりしてるのもいいアクセントになってるし、50代の彼らが10代の頃にはなかったスキルと潤沢な資本、そしてこの手の音楽やるならこれ以上の人選は考えられない助っ人二人の力を借りて作ってみたら、1986年のクロスオーバースラッシュの名盤が出来てしまったという。
シュレッドなんて何年もしていなかっただろうトレイのソロはちゃんとSlayerっぽくインセインだし、スコット・イアンの高速刻みは腱鞘炎が心配になるし、ロンバードはやっぱりロンバードだし、トレヴァーのベースは意外とバキバキ存在感があっていいし。パットンは歌を封印してスラッシュ的吐き捨てとシャウトに特化してるけど、やっぱこういう激しい音楽やってるときが一番イキイキしてるようにも感じる。
2. Palimpsest / Protest The Hero
新作が出てもあんま名前が出ないし「あ、いたね」って感じで存在感が薄くなっているProtest The Heroです。7年ぶりのアルバムなのか。コミカル・シニカル紙一重のテクニック全開躁状態プログレメタルはDjentっぽいリフがあったりとはいえ基本的にはいつも通りなんですが、今回は全体的にロディの歌メロがかーなーりー冴えてる。Emoっぽく煽情度が高くてかなりいいぞ。特にFrom The Skyのサビメロ(1回しかないからサビと言わんかもしれんけど)は脱糞ガッツポーズ級じゃないでしょうか。あとはオケヒというかストリングスの絡め方もいいんですよね。All Handsでの使い方はかなりグッときます。アルバム単位では彼らのカタログの中で一番好きかもしれんぞこれ?
残念なところは歌詞はおろかクレジットも何も情報が一切載ってないところ。全部ネットでわかるだろ?ということなんだろか。
3. Origin Of The Alimonies / Liturgy
和楽器やハープなどのアコースティックな響きとブラックメタル的な手法にグリッチかまして徹底的なドラマ性を追求するという前作の延長上ながら歌劇性が高まり、ニューヨーク人脈的というかジョン・ゾーンの薫りが感じられるからか、歌劇的だからかそのジョン・ゾーンのSix Litanies for Heliogabalusっぽいなと思うところもあり。個人的には尺の点でやや物足りないというか、もう1,2曲ガツンとした曲を加えて40分強ぐらいにして欲しかったなとも思ったりはする。まあでも傑作です。早くアナログほちい。
4. The Burning / British Lion
Iron Maidenというバンドのスティーヴ・ハリスさんのソロ?であるところのBritish Lionの新作です。スタジオライブかなってぐらいシンプルなプロダクションで1曲目はパンクっぽく、2曲目は哀メロモードのレッチリっぽくも聞こえるんですけど全体的には70年代ハードロックというか「ブリティッシュロックのイデオロギー」「大英帝国の薫り」と言った伊藤政則ワードが浮かんでくる路線。アナログの音にめっちゃ映える。
ベースはいかにもスティーヴ・ハリスだしもちろんMaiden的なとこもあるんですが、決定的な違いは哀メロ泣きメロの充実度。マイルドな声質のリチャード・テイラーが儚げに歌い上げるメロがかなり狂おしく、apple musicで☆が付いてるアタマ3曲よりも4曲目以降の方が「おお?おおお?」と拳を握りしめて腰が浮いてしまうメロが多いです。Elysiumたまらん。こんないい曲Iron Maidenにはないぞ。「これをブルースに歌って欲しい」という人もいそうですけどこの哀感はリチャードの声質ならではだと思うなあ。
あとこのアルバム、サビメロにコーラスというかハモリがついてる曲もほとんどない。その辺もまた味わい深いというか北欧でもアメリカでもないイギリスっぽさを感じる。徹頭徹尾ジジくさいけどだからこそいい!と言いたくなるいいアルバムですわよコレ。
5. Stare Into Death And Be Still / Ulcerate
テクデスというんでしょうか、とにかくテクニカルな千手観音ドラムに不協和音を交えた慟哭リフが鳴る終末の黒煙に包まれた音楽です。単に静かなパートと激しいパートがあるみたいな緩急だけではなく、ドラムが突っ走ってる間もギターのリフに絶妙な起伏とノリがあってめっちゃいい。聴いててもそんな疲れないのでおじさんにも優しい。
6. Alphaville / Imperial Triumphant
アヴァンギャルドなブラックメタルにジャズ、クラシック的要素も取り込んで…いやアヴァンギャルドなジャズにブラックメタルを取り込んだ、の方が近い気もする。不協和音の使い方であるとかトレイ・スプルアンスが関わっているという先入観もあってMr. Bungleの2ndに通ずる雰囲気もあったりします。ドラムはジョン・ゾーン周辺人脈なんですね。
Meshuggahのトーマス・ハッケによる和太鼓やピアノの使い方も含め、全編通して楽器陣の絡み方がめっちゃカッコ良くてひたすらスリリング。いやいいぞーこれ。
ちなみにアナログ盤だとSide DにはVoivodのExperimentとThe ResidentsのHappy Homeのカバーが収録されてるんですが、所謂Double-Groovedで2曲の溝が並行して刻まれていて普通に再生するとExperimentだけが聴けて、Happy Homeを聴くためにはExperimentの曲アタマから少しズレたところに針を落とさなくてなりません。コレ、Mr. Bungleの2ndにもそういう仕掛けありましたね。ひょっとしてトレイの入れ知恵なんでしょうか。Happy HomeはまんまMr. Bungleの2ndの雰囲気というかImperial Triumphantによるカバーでこんなこと言うのも変なんですが、Mr. BungleがかなりThe Residentsの影響を受けてることがわかるカバーになっております。
7. Mestarin Kynsi / Oranssi Pazuzu
このバンド、今まではイマイチハマりきれずだったんですが、別プロジェクトWaste Of Space Orchestraにずっぽりハマったからかこの新作は一発でやられました。とにかくサイケデリックかつスペーシーな広がりとイーヴォーな闇のバランスが絶妙だし引っ掛かりのあるリズムの反復に豊潤な音色が重ねられていくのがサイコーで思わずアナ注してしまいました。VoivodとSwansの融合て感じでほんといいなコレ。
サブスクで聴いてるともう少し低音の広がりが欲しいなーと思ってたのでアナログの音はプロダクション的にもムードにもめっちゃマッチしてる。2枚組だけど曲が刻まれているのはC面までで、この3分割もちょうどいい。ちなみにB面ラストは針が上がらないような仕掛けになっており、アルバムの内容的にも1枚目の4曲と2枚目の2曲でコンセプトが分かれていたりするんだろか。
8.Alter Echo / Dizzy Mizz Lizzy
今回のDizzy Mizz Lizzy、やけに重厚なエピックメタル路線だなと最初は「いやいいんだけどさ、でもほら、DMLに期待してるのってシンプルでいながらヒネリのあるハードロックなわけで…」とかブツクサ言ってたんですが、インタビュー読んだらティム・クリステンセンがアナログレコードを意識したことを語っていたりお気に入りとしてPelicanとMonoとElderを挙げていてそれでバチっとなんかハマってしまって思わずアナ注。サイケであったりプログレ的な触感を踏まえて聞くとどんどん好きになっていきました。
9. Quadra / Sepultura
正直マックス脱退後のSepulturaにはあまり興味を持っていなかったんですが、好評に誘われて聴いてみた新作はめっちゃ良かった!スラッシュだけどグルーヴもあり、シンフォニックでありながらルーツミュージックでもあるというバランス感覚が見事でした。
10. Grae / Moses Sumney
今作もアブストラクトなR&Bというか、引き続きAmnesiacあたりのRadioheadムードもまとっております。正直最初はガツンと来るのないかな?と思ってたんだけど聞きこむうちに歌にもトラックにも曲にもズブズブはまってきたぞ。サイケデリックでドリームィでいいんです。Thundercatやダニエル・ロパティンからエズラ・ミラーまで、人気者大集合。
11. Omens / Elder
4thよりさらにプログレ色が強まって初期のヘヴィネスを恋しく思う人も多いんでないかしらと思いつつも風景描写の色彩と画力構成力にめちゃめちゃ引き込まれるしサイケデリアな風味が増していいじゃないですか。最終曲にはAnathemaを思わせる柔和さもあり。ヴォーカルにもう少し説得力あったらなあと思わんでもないけど別に歌モノってわけじゃないからいいか。
12. State of Deception / Conception
リリース直後は「地味だ…もっとサビでキター!ってなる高揚感のある曲欲しかった…EPに入ってたGrand Designをこっちにも入れてくれたらよかったのに…」と思ってたんですが、1ヵ月寝かせて(ほったらかして、もしくはすっかり忘れてて)久しぶりに聴いたらその地味さが、高揚感の無さが緊張感と奥行を生んでいるというか、Faith No MoreのSol Invictusと同じく若者や市場を意識しない中年ならではの落ち着いた自己表現の味わい深さに昇華していてめっちゃいいのよ。
Waywardly Brokenのギターの重いリフレインからの、躍動感はあるけれど明快さに逃げないNo Rewindへの流れはたまらんし、By The Bluesは最初聴いたときの「地味だ…」という印象がウソのように好きになってしもた。ソロの派手さではなく、リフの味わいとシンプルなリズムの絡みで引っ張るのがいい。唯一往年の明快さが垣間見えるShe Dragonも「ベタ」「わかりやすい」とは一線を画しているし、全編に渡ってこのバンドにしか出せないダークな落ち着き、そしてほんのりフューチャリスティックなムードを味わえて素晴らしい。Kamelotでバーンアウトして教会で働いていたロイを初めとしてみんなそこまで精力的に音楽活動していたわけじゃないのに現役感バリバリかつアップデイトもされてるってとこが凄いよなー。
メタルの文脈にしっかり留まってはいるけれど、昨年出た同郷Leprousの新作と通底するものがある。彼らはConceptionの影響受けてたりしないんだろか。
13. Primal Forms / Shackleton / Zimpel
トライバルアンビエントと言われる伝統的な楽器を使用したアンビエントめでミニマルめな電子音楽ってことらしいですが、ノスタルジックだったりシャーマニックだったりととにかくめっちゃいいです。Zimpelさんのクラリネットによる不思議と物悲しい旋律もクセになるし、MonochordやLiraと言った耳慣れない楽器も使われています。トロピカルなようでトロピカルでなく、暗黒なようで暗黒でなく、それでいて異世界ムードを感じられる音楽で聴いてて飽きない気持ち良さに満ちております。
14. Change The World / Harem Scarem
いつ頃からか俺の中で「確かによく出来てるけど熱意を感じないというか仕事感が先行しちゃってるよねえ」みたいなイメージだったHarem Scarem。今回も特に期待しないで聴いたんですけど、よよよよよ良いじゃない!Treatの再結成後第一作んときみたいななんだよまだこんなにやれんのかよっつー驚きの1枚で思わずアナ注してしまいましたし今までの言動をお許しくださいとジャンピング土下座です。こんだけ充実してれば姿勢がどうかは関係ございません。ほんとフェイバリットチューンが日替わりになるぐらいの充実度。Change The Worldでのトニー・ハーネルの参加もいいよね。
15. Magic / Oneohtrix Point Never
バンド編成でのライブを通過したからこそのような曲もあれば相変わらずSF宗教音楽っぽかったりもしていい。そしてSide Dで一気に強まる終末感というか黙示録感。この構成、アナログを意識したのかたまたまなのかわかんないけどめっちゃ良いです。
16. Rise / Sault
女性ヴォーカルによるマイコーのOff The Wallにも通ずるソウルというかファンクの現代版て感じでかっけーわーと思ってるとちょいちょいアフリカンビートというかサンバのようなビートが入ってきてこれがまーアガるんですわ。音響の作り方というか楽器の定位も奥行と配置が考えられてて凄くいい。簡単に言うと、とてもいいのよ。
17. Down In The Weeds, Where The World Once Was / Bright Eyes
4曲目のムード歌謡を初めとして終盤のメロドラマ攻勢といい、ベタへの躊躇なさが最高です。
18. Fetch The Bolt Cutters / Fiona Apple
叩きつけるというよりは、ときに跳ね、ときにつんのめる感じで歌と演奏を楽しんでいる雰囲気がすごく気持ちいいんですよねこのアルバム。
19. The Dark Delight / Dynazty
領域を食い破るわけでもなく、かと言ってエクストリームになりすぎないポップ寄りの中庸メタルもいいですね!前作はあんまり印象に残る曲なかったけど今回はアグレッシヴな曲もポップな曲もどっちもバランスが取れてていいじゃんと思ってオーダー。おじさんなのでポストNightwishでAmarantheっぽい四つ打ちメタルは苦手なんですが、このアルバムに入ってるHeartless MadnessとWaterfallのポップさには抗えず。前者にはなぜか息子がハマっています。
20. Éons / Neptunian Maximalism
Akiraの山城組によるドゥームメタルって感じで密教・奇祭・暗黒性がめっちゃヤバいんですけど何せ2時間8分という長尺なので通して聴いたことはない!しかしかっちょいいからランキングには入れざるを得ない!通して聴いてないことに勝手に負い目を感じて19位にしました。
21. Spirituality And Distortion / Igorrr
Genghis Tronを思い出すブレイクビーツ多用のアヴァンギャルドメタルに室内楽っぽいクラシックやエキゾチックなメロディーを導入した音楽でエグくていいんです。クラシックの導入っつっても美や品格をもたらすわけではなく、他のサウンドとの対比によって独特のシニシズムを放っているように感じます。
あと良く聴いたのは
There Is No Year / Algier
Endarkment / Anaal Nathrakh
Underneath / Code Orange
Ohms / Deftones
Wrong Generation / Fever 333
The Absence Of Presence / Kansas
Dark Matter / Moses Boyd
Brat / Nnamdi
It Is What It Is / Thundercat
Abyss / Unleash The Archers
あとはJesuの新作とかも出てたんですよね。聞き逃し沢山あるなあ。